研究概要
J-PARC(東海村)のミューオンビームラインで標準理論を超えた物理、時間反転対称性の破れの探索実験に取り組んでいます。素粒子ミューオンを均一な磁場中に置くとスピン歳差運動という、コマのような動きをします。その回転周期は標準理論を越えた物理や電気双極子モーメント(EDM)の探索に感度があります。EDMは時間反転対称性の破れを示唆する物理量であり、実験的に直接検出できれば世界初の成果になります。これらの物理量を超精密にサブppmで測定する実験の実現のために、我々の研究室では、医療用MRI技術を応用した世界最高制度の蓄積リングにJ-PARC加速器が生成する高品質ミューオンビームを蓄積する技術開発「3次元螺旋軌道ビーム入射」に取り組んでいます。茨城大学はJ-PARCから最も近い大学であり、世界最先端の研究現場に気軽に足を運べるという恵まれた環境にあります。またつくば市のKEKキャンパスでは全長1mほどの電子銃ビームラインを占有し、3次元螺旋軌道ビーム入射の実証実験も進行中。ビーム力学・制御技術を基礎から習得し、かつ最先端の技術開発に挑戦する環境が整っています。
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ミューオンスピン歳差運動の超精密測定に向けた研究開発
私たちは物質優勢の宇宙に住んでいます。これはビックバン直後の物質と反物質のバランスがほんの少しだけ(10億分の1)ずれていたため、物質優勢の宇宙が安定して存在できると考えられています。しかしこれは、物理法則でおなじみの「保存則」が破れていることを意味しており、最先端の物理の知見をもってしても、謎のままです。この保存則破れを、CPの破れ(Cは荷電共益対称性、Pは空間対称性)と呼びます。もし、CPが破れていると、量子力学の法則とローレンツ不変性により、Tの破れ(Tは時間反転対称性)が同時に起こっていること、を示唆します。 素粒子ミューオンのスピン歳差運動を超精密測定により、Tの破れの直接的な証拠を見つけたい!J-PARCが誇る大強度陽子ビームから高品質のミューオンビームを生成し、光の速さの94%まで加速、医療用MRI磁石を応用した超伝導磁石の中にミューオン粒子を多数蓄積し、そのスピン歳差運動をジックリ観察しよう!そして時間反転対称性の破れの発見と、物質優勢の宇宙の謎の解明に挑むことを目標に研究活動を行っています。詳細は解説記事「J-PARC ミュオンビームで拓く基礎物理実験」(日本中間子学会会誌・めそん52号より抜粋)もどうぞ。
素粒子物理実験に特化した専用ビームラインを
建設し、世界唯一の実験に取り組む!
東海村J-PARCのMLF(物質・生命科学実験施設)の基礎科学に特化したミューオンビームライン(H-ライン)に設置する実験装置の設計・建設に取り組んでいます。
我々のグループは、①光の94%まで再加速されたミューオンを蓄積磁石までの輸送、②超伝導磁石内部の入射技術、③ビーム入射後の蓄積軌道の制御、④各ステップでのビーム診断、に取り組んでいます。
研究拠点は茨城大学東海サテライトキャンパス(東海村白方、J-PARCのすぐそば)です。高エネルギー加速器研究機構(KEK)や日本原子力研究開発機構(JAEA)の共同研究者達と密接な協力体制をもって研究を進めています。
3次元螺旋軌道ビーム入射手法の開発
世界初の試み:光速の94%の相対論的ビームを1周2mの円軌道に蓄積するのは前例のない挑戦です。一般的な加速器の1周数キロメートルのリングにビームを蓄積する手法とは根本的に異なる手法の開発が必要でした。我々は、1周2mを単体ソレノイド磁石の中に蓄積軌道として持つ事を考え、ソレノイド磁石内部へ3次元螺旋軌道を取りながらビームを入射し、蓄積する手法を新しく開発し、「3次元螺旋軌道ビーム入射」の実現に取り組んでいます。特に、ソレノイド軸に対し回転対称な磁場中へのビーム入射の実現には、ビーム位相空間に適切な「X-Y結合」が必須です。これを実現するビーム輸送ラインの設計・建設にも取り組んでいます。
能動的磁気遮蔽機能付き電磁石 (Active Shield Steering Magnet)
3テスラの強い磁場中では鉄はもちろん、磁化する材質は一切使用できません。安全面の問題はもちろん、超均一に調整された磁場に誤差要因を与えないためです。しかし、入射ビームの軌道制御の為には動的な磁場制御装置も必須です。相反する要求を満足するために鉄を一切用いない、2層構造の銅線コイルパターンが作る磁場発生装置を開発しています。電磁気学の知識を駆使し、医療用MRI磁石の技術を応用した最先端の装置作りに取り組んでいます。
3次元螺旋軌道入射の実証実験
(KEKつくばキャンパス)
高エネルギー加速器研究機構(KEK)のつくばキャンパスに電子銃を用いたテストビームラインにて、原理実証実験に取り組んでいます。本番よりも3分の1スケールのさらに小さい蓄積リング(1周0.75m)に80keVの電子ビームを蓄積します。手づくりの小型ビームラインながらも本番実験に必要な技術要素は全て含んでおり、ここでの知見をJ-PARCの本番実験用ビームラインの建設に反映させます。また、博士課程・修士課程学生達の実践経験の場になっており、多くの論文成果発表も出ています。本装置は科研費サポートを得ています。